「よいサービスにはコストがかかる」は本当か

「一橋ビジネスレビュー」という雑誌のWebサイトがあります。
http://www.toyokeizai.co.jp/mag/hitotsubashi/index.html
その中の「ケース・ディスカッション」というのが面白くてよく見ています。
今回は「フレッシュネスバーガー」が取り上げられています。
私はあまりフレッシュネスバーガーにたいする印象はなかったのですが、定食屋「おはち」もやっている会社で、そちらの方は会社の近くにあるので、たまに行きます。
ディスカッションではこの会社がいかに面白い経営をしているのかを知るために、その前提となる状況等を分析するところから始まります。

僕たちが業界構造を分析しなさいとか言うと、すぐ売っているもの
、この場合はハンバーガーだけで切ってしまうことになる。そうい
う視点じゃなくて、一体だれを相手にどんな価値を提供しているの
かで、コンペティターが全然違う。そこで本当に競争が成立するの
か、あるいはしないのか。参入する価値があるのか、ないのか。
すなわち、ハンバーガーショップはマクドナルドだけを相手にするわけではない、対象顧客によってはスターバックスが相手かもしれないし、街の一軒家レストランかもしれない、もしくは、顧客の財布と言う観点から見たら携帯電話が相手かもしれないと言うわけです。なるほどという感じです。
そして、今回の中で一番印象に残った言葉が「『よいサービスにはコストがかかる』は本当か」というものでした。
フレッシュネスでは、厳しい教育をやっているわけではなく、イメージビデオを見せるだけ、それでも店員は楽しそうに働いていると言うことです(「おはち」ではそこまでの素晴らしさは感じませんが、別に悪い印象もないですね)。それがよいサービスとして現れると言うことです。
最近思っていることですが、システム開発はどうしても工数ベースの見積になってしまいます。すなわち、原価率80%とか90%とかがあたりまえの世界です。フレッシュネスでは、一番原価率の高いフレッシュオレンジジュースやフレッシュネスバーガーが75%くらいのようです。この差は何かと言うと、やはり顧客の満足度と言うことになるのかなと思います。顧客の感じるシステムの価値が工数を超えてこない限りは工数ベースの原価による見積をし続けなければならないわけです。
しかし、どうも世間の風潮としてはシステム開発にお金をかける方向に動いているように見えます。多分私の会社だけではないと思います。失敗プロジェクトが発生すると反省の言葉としてでてくるのは「要求分析が甘かった」「設計が甘かった」です(8年前から聞き続けている!)。その度に、羹に懲りて膾を吹く式に設計書を細かく細かく書こうとします。「きちんとしたものを作ろうとしたらお金がかかるんですよ」すなわち「よいサービスにはコストがかかる」という説明がされます。
まあ、私も色々な制約の中で仕事をしているわけですからこういう説明をしてしまうことがしょっちゅうですけど、本当は違うなと思います。「あれもこれもしなければ品質が保てない」と言われるのですが、「うちの現状はそうかもしれないけど、もっと勉強して同じ品質をより低コストで実現しよう」と言いたいことがしばしばです。
フレッシュネスでは、心地よさを提供するための教育手段として、座学ではなくイメージビデオと言う方法を使ったわけです。技術者に技術を提供させるためにどう勉強させていくべきか、大きな問題です(もちろん自戒を込めてですが)。
ところでディスカッションは社長の話になってくるのですが、それについてはちょっと疑問もありました。
一応フードマネジメント会社を目指しましょうといっています。
オペレーションはお店がやることで、我々は店が販売に専念できる
仕組みをつくるインキュベーションのチームだと。皆さんは販売に
専念しなさいというので、セグメントしちゃっている。
これをやって面白いのかが不思議なのです。社長はもともと建築の設計をしていたと言うことで、現場の面白さは判っていると思うんですけどね。で、こういう人たちが儲けるから、頭を動かすだけをしようとする人が多すぎのような気がします。システム開発では上流志向ということがあると思います。若い人たちもすぐに上流だけをやる立場になりたがります。よく「PGもやってるんですか!」と驚かれますが、面白いからやっていると言う面もありますが、やらないとついていけなくなる、やっていた方がよい分析・設計ができるからやっているわけです。これはあまりにも愚直な考えですかね・・・。
そうは言っても、アイデアはさすがに面白いです。
1軒しかないお店を1000軒つくれないか、というのが我々のビジョ
ンなんです。だから、チェーン理論だと、食材を共通にするとか、
何かでシナジー効果を出そうとすると思うんですが、究極の姿とし
てはチェーンじゃないというふうに最近思ってきています。要する
に、1店単位で投資と売上げをバランスさせてもうかればいいわけ
です。
これは、「私は私」の時代だからと言うことなのですが、ある意味システム開発はこの路線を行くわけです。シナジー効果を出すために店を出すのではなくて、儲かる店を出すために本部ができることをする。フレームワークを使うためにシステムを作るのではなく、よいシステムを作るために・・・、また愚痴になりそうなのでやめておきますが、こういう経営における本部の役割みたいなことは、今後参考にしていきたいような気がします。
というわけで一人盛り上がってしまいました。
他の企業についてのディスカッションも面白いので、よかったらどうぞ!